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演題 「終末期」

弁士 後藤祐太郎(政2)

「あなたの余命はあと6ヶ月です」
あなたはこう医師に診断されました。想像してみてください。
あなたならどうしますか?

人生において終末期とは、いつを指すのか。医学的に言うならば、医師によって不治の病であると診断をくだされ、それから先数週間ないし数カ月(およそ6ヶ月以内)のうちに死亡するだろうと予期される状態になった時期をいいます。すべての人は何らかの形で終末期を経験するでしょう。
2007年の年間死亡者数は約110万人。日本では単純計算で一年に100人に1人の人が亡くなっています。死因別にみると1位は悪性新生物、ガンであり、心疾患、脳血管疾患がこれに続きます。
終末期における医療は患者の希望に応え、そのニーズをできるだけかなえることが目標です。患者の病状の段階に応じた方法が求められるのです。2006年の医療法改正で在宅療養支援診療所というものが新設されました。これは24時間体制で往診や訪問看護を実施する診療所です。全国に約1万箇所あります。終末期を自宅で療養したいと望む人は患者全体に対して約60%であり、また国の政策として在宅療養を推進していくことになっています。
しかし、実際には段階に応じた医療、というものが十分にできていないのです。

では現状はどうなっているのか。以下に述べていきます。
末期がんではがん疼痛という痛みが発生します。がん患者の7割が訴える痛みで、いつまでも続く強い痛みというのが特徴です。この痛みは医療用麻薬、鎮痛補助剤を効果的に使用することで緩和することができます。しかし東京都在宅緩和ケアセンターの調べによると、この方式で痛みの治療を行っている診療所は全体の37.3%しかありませんでした。医療用麻薬の使用が重要なのですが、日本は医療用麻薬の使用量が欧米に比べると少なく、アメリカに比べ7分の1ほどしかありません。これには、患者側、そして医者側両方に問題があります。患者側は医療用麻薬に対する誤解があり、薬物依存があるのでは、寿命が縮まるのでは、ということでためらいがあり、医師側には法律の規制が煩雑だ、医療用麻薬に対して間違った知識を持っているということがあります。日本医師会が2008年1月に行った「がん医療における緩和ケアに関する医師の意識調査」のアンケート調査によると、がんの診療を行っている医師の約30%が免許を所持していませんでした。また同調査では、4割をこえる医師が医療用麻薬に対して誤った知識をもっていることも分かりました。
医療用麻薬の使用が普及していない、これにより患者の段階に応じた終末期ケアができてない問題があります。
また終末期ケアには安楽死や治療拒否といった無視できない問題もあります。一言に安楽死といってもその内容でいくつかに分類ができます。
1、純粋安楽死 これは苦痛の除去を目的とするもので、その際に薬剤に副作用が認められないものを指します。
2、間接的安楽死 これは苦痛の除去を目的とするが、使用する薬剤に副作用があり、その結果として死期が早まるものを指します。
3、消極的安楽死 これは延命治療を控え、それにより死期を早めるものです。
4、積極的安楽死 これは直接生命を短縮するものです。これに類する形式として医師による自殺幇助があげられます。
日本ではこの1、2、3の形での安楽死が行われています。
4番目の積極的安楽死は認められていません。ですが、冒頭で述べたように、患者の病状にあった終末期ケアというものが求められています。その中において、「人生の最期に痛みは感じたくない、痛みを感じながら死ぬのは嫌だ」と訴え、積極的安楽死を望む患者もいるのです。
しかし積極的安楽死を認めることには『滑りやすい坂道』になる可能性があるという批判があります。この『滑りやすい坂道』とは社会に負担をかける人への抹殺という意味です。そのようなことが無いようにあらかじめ予防策をうたなければなりません。

私の政策の目標は、終末期を迎えた患者、彼らそれぞれの望む終末期ケアを受けることができる社会です。

この達成を阻んでいる問題、それは先ほどまでの分析で二点ありました。
一点目、医療用麻薬に対する誤解、これは医師、患者双方あります。
二点目、安楽死、治療拒否といった無視できない問題です。

私の理想を達成するために何が必要か。以下に二つの政策をあげます。

一つ、段階に応じた終末期ケアを達成するための政策。
在宅療養支援診療所を開設するにあたり、麻薬施用者、ならびに麻薬管理者の免許の取得を条件とします。これにより終末期ケアのカギである在宅療養支援診療所において、医療用麻薬が施用できる環境を整備することができます。
また、医師全体がもつ医療用麻薬への誤った認識を正すために、医師国家試験における医療用麻薬の設問の増設を提案します。これにより新たに生まれる医師に医療用麻薬に対する正しい知識が期待できます。
患者が抱く医療用麻薬へのマイナスイメージも、これらの政策をうち、先に提供する側の環境を整えることでなくしていくことができるのです。

二つ、安楽死を認めるための政策。
東海大学病院「安楽死事件」において横浜地裁が安楽死の4つの要件を出しています。
1、患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること
2、患者は死が避けられず、その死期が迫っていること
3、患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段が無いこと
4、生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること
これら4つの要件を満たしたうえで、積極的安楽死を決める場合は、まず患者からの要請があった上で、実際に安楽死を提供する前に担当医、第三の医師、患者、患者の家族で説明する場を設けます。そこにおいて、医師は該当患者に積極的安楽死をすることが医学的に妥当かを説明し、また、患者との協議の上積極的安楽死をどのような方法で実行するかを決定します。医師は医学的観点からのみ発言します。
しかし、これだけでは患者の意思をすべて汲み取ることができません。なぜなら、終末期で安楽死が必要とされる段階になって、患者の意思が確認できないということがあるからです。意識があるうちには、このような状態になったら安楽死を希望すると言っていたとしても、実際に安楽死をするときになって患者の意思が確認できなくなった。だから安楽死ができない。
このようなことがないように、患者が事前の段階で自分の意志を表明できる「患者指示書」を作成するための「患者指示書法」を作ります。これを作ることでより患者の希望にあった終末期ケアが可能になります。患者指示書の中で患者は治療の拒否、またはどのような処置を望むかを指示することができます。作成したものは医療機関に保存します。ただし患者が撤回を希望した場合にその拘束力を失うものとします。
医療側、そして患者側、この両方向からの政策により、患者の希望にあわせた、終末期ケアが可能になります。

医療とは病気を治すことであり、病気が治せない終末期において医療という言葉はふさわしくありません。そこには人類が培ってきた医学により、救われる人がいるんです。
弁論の最後に、私が冒頭で述べた問いをもう一度言います。
「あなたの余命はあと6ヶ月です」
あなたはこう医師に診断されました。想像してみてください。
あなたならどうしますか?


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