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演題 「渚にて」

弁士 野口貴博(政2)

世界全体のGDPは2004年以降、5%を上回る勢いで急激に経済成長しています。この成長をけん引しているのが中国・インドをはじめとするBRICsに代表される新興国です。2007年の世界経済成長予測4.6%のうち、日米欧のウェイトは1%弱であるのに対し、BRICsのそれは2.2%、1.5%が他の新興国によるものなのです。
しかし、新興国経済の台頭は世界経済の成長率を押し上げているばかりではなく、エネルギー資源市場に価格高騰という形でも大きなインパクトを与えているのであります。近年の世界経済の成長をもたらしたのは新興国のモノづくりであり、高速道路、発電所といったインフラの整備であるため、地球規模でのエネルギー資源需要の拡大が喚起されていたのです。
そう、ついに世界規模でのエネルギーと資源の大量消費時代が到来したのであります。これはエネルギー資源価格の「均衡点の変化」を意味します。
原油価格は高騰を続け、ロシアや南米など資源保有国では資源ナショナリズムの高まりを見せています。こうした状況は新興国のさらなる経済成長とも相まって、さらなるエネルギー資源価格の高騰の入り口にすぎないのかもしれません。
エネルギー資源高価格時代の到来は、「資源貧国」である日本にとってもリスクであると言えます。原油価格の高騰は、企業にとっては大変なコストアップ要因であり、日本経済の足を引っ張りかねません。「均衡点の変化」とも言われる最近の原油価格の上昇が、エネルギー効率をさらに高めるなどの合理化の限界を超えれば、生産物への価格転嫁を余儀なくされ、インフレにつながります。もし価格転嫁ができなかったならば、企業の業績が悪化し、投資設備の減退や雇用の削減も懸念されます。こういった景気に対する悪影響を与える可能性を秘めているのです。

それではまず、限られた資源をめぐった世界の動向を分析していきます。2006年まで4年連続で経済成長率が10%を越えた中国では、長期的な工業化・都市化の加速と消費市場の急拡大や全国の石炭、電力、輸送能力の拡大がその大きな要因となっています。しかし、工業生産のペースが加速すれば、中国経済全体の安定成長を脅かしかねません。実際に中国は、2010年には使用する石油・石炭などのエネルギー資源の量が、2004年の2倍になるといわれています。
また、2005年に中国政府は南米との連携強化や、アフリカでの石油利権を確保済みであるなど、かなり積極的といえる資源外交を展開しています。
ロシアでは、石油産業に対する国家管理の強化や外国資本の制限を打ち出しています。2006年のサハリンIIへの介入がその好例であります。
同じような外国資本の排斥や国家管理の強化は南米の産油国でも見られ、資源保有国はかなりの資源ナショナリズムの高揚を見せています。
世界的なエネルギー資源消費量は、2050年には今の約3倍のまで増加するといわれています。しかも、原油価格の高騰を中心としたエネルギー資源価格の上昇は、価格高騰により需要が抑制されるという市場メカニズムが働かなくなり、資源保有国が自国の利益のために政治的に使用する「戦略物資」の性格を強めているのであります。
これらの原因を分析すると、中国など新興国の急激な経済成長により資源エネルギー使用量が増大しそれが資源確保を目的とした資源ナショナリズムの高揚につながり、また、石油をはじめとしたエネルギー資源価格の高騰を呼び起こしているのであります。

それでは、実際にエネルギーを使用している企業や工業の分析に移ります。
たとえば鉄鋼業の例で見ると、日本鉄鋼連盟の調査では、同じ量の鉄鋼を生産するのに、中国は日本の1.5倍ものエネルギーを使用しています。実は日本は、エネルギー効率の面で言っても、環境対策の面で言っても、世界最高峰の技術を誇っています。
経済産業省によると、平成18年度までに15年と比べて6%のエネルギー消費効率の改善に成功しており、平成40年度までにエネルギー効率改善目標を30%まで達成するという目標を設定したと発表しています。日本国内では経済産業省などの主導により省エネ対策が進んでいますが、発展途上国では、生産設備の増強など収益向上のための投資が先行し、省エネ投資が後回しになりがちであるなど、国際的な省エネには課題があります。政府は政府関係者同士の交流支援は拡大していく方針ですが、民間などの技術提供などは、展開されていくめどが十分にはたっておりません。日本企業にとっても、省エネ・環境対応技術を商業化のチャンスと見て技術開発を活発化する動きが出ています。例えば、省エネ・省資源による物質循環システムの形成やGTL(ガス・ツー・リキッド)などの石油を代替する液体燃料の製造、太陽光や風力などの自然エネルギーの活用などです。しかし、国際的にこういった技術を受け入れる下地が十分でないために、企業による協力はあまり行われて来なかったのです。

以上の分析により、新興国のエネルギー使用が爆発的に増加していることについて2つの問題点が浮上してきました。その1つが、BRICsを中心とした新興経済国のエネルギー効率が悪いということ。2つ目が、日本企業と新興国の企業などといった、民間の技術提供が促進されていないということです。こういった2点の根本原因が存在するのです。

現在の資源ナショナリズムの高揚は日本にとって対岸の火事ではなく、日本にとって与える影響は大きいものといえましょう。また、地球のエネルギー市場において「均衡点の変化」は、世界経済に更なる悪影響を与えます。

今、我々がすべきことは何でしょうか。それは、現在の先進国で導入されている省エネルギー技術を新興経済国などで導入していくことです。そうすれば、価格高騰や資源ナショナリズムに過剰な負荷を負わせることがなくなります。

それでは以下に、これを阻害している先述した2つの問題点を解決し、現在の科学技術で可能なエネルギー効率化を各国が段階的に導入していくための政策を2点提示いたします。
第1点目がエネルギー使用効率改善のための国際会議の開催
第2点目が「省エネ技術導入基金」の設立
であります。

まず第1点目に関してです。新興国などはエネルギー使用の点において政府の対応が遅れているのです。そこで、エネルギー消費効率を各国が向上させるための国際会議を開催し、達成目標を決定します。そのため、エネルギー資源消費量が多い国がこの会議に参加します。各国が設定した目標に沿って、長期的・段階的にエネルギー消費効率を改善していきます。また、各国はその目標達成のために国内では外国企業からの技術提供を受けた場合には、受けた企業に対し、免税措置や優遇措置を取ります。これらはその国のエネルギー効率化につながるため、また、環境税などのように税金を取ることにより無理に削減させるものとは異なり、経済発展を阻害するものではありません。

第2点目の政策は、エネルギー使用効率化の技術提供を行う企業への動機づけとするために、「省エネ技術導入基金」を設立します。これは、1点目の国際会議に参加する各国が削減目標の割合に応じて原資負担し、積極的に技術提供を進める企業に対しての技術提供報酬の上乗せとするのです。それにより、技術提供の商業価値が高まり、日本などの高レベルのエネルギー使用技術をもつ企業への動機付けとします。

 1点目の免税措置や優遇措置、2点目の「基金」による企業支援により、「技術提供」の商業価値が高まり、現在阻害されている民間の技術移転が活発になります。また、技術提供を受けた側の国は、エネルギー利用効率の向上は、以前よりも少ないエネルギー使用量で同程度の工業製品の加工やインフラの建設などができるようになるために、その国の経済発展を阻害するものではありません。これにより、現在むやみやたらに行われている資源ナショナリズムの高揚による国際的な摩擦は肥大化することはなく、それにより資源価格も爆発的な高騰を防止し、価格上昇の急激さを和らげることができるのです。

われわれの前にはエネルギー資源高価格時代到来という名の津波が押し寄せています。津波を防ぐ防波堤を築くには、そのための技術が今、必要なのです。安定した心地よい渚が瀬戸際に変わる前に、するべきことをしなければなりません。
ご精聴ありがとうございました。


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