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演題 「快晴の空」

弁士 成田嵩憲(政2)

約36万人が死亡。約64万人が呼吸器か循環器系の病気で入院。約26万人が慢性気管支炎の状態…。
この数字は中国環境保護省が調べた2004年の中国の大気汚染における被害者数です。
さて、この中国で甚大な被害を及ぼす大気汚染…。
私たち日本人も被害を受けていることをご存知でしょうか?
そう、中国の汚れた大気が風に乗り、中国の国境を越え、日本にまで被害を及ぼしているのです。
昨年、九州で光化学スモッグ注意報の発令数が過去最高を記録したのですが、その原因の約50%は中国にあることを国立環境研究所が確認しました。
具体的に言えば、光科学スモッグの被害のひどい日は、福岡県北九州市だけで、児童・教員ら300人以上が目やのどの痛みを訴えるという事態にまでなり、ほとんど被害のなかった九州の被害者数は2000人に達しました。
また、国立環境研究所によると、10年後、東京でも中国からのスモッグの割合が40%近くになり、全国1万人の被害者が10万人程になると予測しており、私たちの健康な生活を脅かす大きな問題だと言えます。

では、なぜ中国の大気汚染は深刻なのでしょうか?
中国の大気汚染の発生原因は、
1点目に「汚染物質の除去活動が遅れていること」
2点目に「エネルギーの使用効率が低いこと」の2点が挙げられます。

1点目の「汚染物質の除去活動が遅れていること」ですが、中国のエネルギー消費の構成は、中国国内で賄える石炭が約80%を占めており、石油・天然ガスに比べ石炭は硫黄酸化物など汚染物質排出量が多いという欠点があります。
この汚染物質の排出量が多い石炭を多く使用しているにもかかわらず、石炭火力発電所の、硫黄酸化物を除去する装置の普及率はたった14%と、ほとんどの火力発電所に取り付けている日本とまさに雲泥の差があります。

2点目の「エネルギー使用効率が低いこと」ですが、特に石炭における中国の使用効率は日本の8分の1と言われており、例えば、火力発電所が排出する硫黄酸化物の量を挙げますと、1キロワット当たり日本は0・2グラムであるのに対し、中国は10グラム以上とこれまた雲泥の差です。

この2点から、中国の大気汚染の原因に対する政策が十分でないことがわかります。

この中国の環境対策不足が明らかな中、中国、日本はどのような対策をしているのでしょうか?
まず中国ですが、中国政府は、2001年からの5カ年計画で、例えば「硫黄酸化物の年2%の削減」を提示し、硫黄含有量の多い約9割の炭鉱、またエネルギー効率の低い小規模な火力発電所の閉鎖、生産停止をすすめました。
しかし、硫黄酸化物排出量が2000年に比べ、たった3年で約30%も増加してしまい、計画の達成ができませんでした。
この失敗を生かし、2006年からの5カ年計画で、初めて「経済と環境の調和」という目標を掲げ、環境対策費として毎年3兆円もの金額を投じ、さらに、業界ごとに省エネ目標値を設定しました。
しかし、今回の計画にも不備があり、目標値を企業だけに置いたため、中国政府においては、硫黄酸化物排出量全体の40%を排出する「電力部門に対する政策が打てていないこと」が、中国企業においても、「環境保全技術がないため、目標が達成できるか見通しが立てられないこと」が問題点として挙げられます。

次に、日本の対策です。
日本政府は中国・モンゴルなどと大気中を移動する汚染物質のデータ共有を図るため「モニタリング・ネットワーク」を整備し、汚染物質の越境を観測できるようになりました。また日本企業も、省エネ技術のCDM(クリーン開発メカニズム)のプロジェクトに認定されれば排出権を確保できます。省エネはエネルギーの使用効率を上げるため、CO2以外に硫黄酸化物など汚染物質の減少にもつながります。
しかし、政府・企業それぞれに不備があり、
日本政府は、中国からの大気汚染だと認定しても、「中国の大気汚染物質に対して、直接的な政策を打てないこと」が
日本企業も省エネのCDMは40%弱しか承認されないため、「省エネのCDMは承認されるリスクが高いこと」が問題点としてあげられます。

では、中国の政策の不備、日本の技術提供における不備が残る中、中国、日本はどのような対策を打てば、大気汚染被害が拡大せず、快方に向かうのでしょうか?

私はひとつの政策を導き出しました。それは日中環境連携協定(EPA)であります。
この日中環境連携協定は、日中間にかかわる大気汚染などの問題に対し、取り決めをし、不備のない枠組みを作り解決を目指す協定です。

まず、この政策目標を示します。
中国側としては「毎年3兆円の環境対策費の範囲内で、不備なく大気汚染問題に取り組むこと」、日本側としては「大気汚染問題の解決する技術提供をした上で、技術提供に見合った利益を得ること」、つまり、日本・中国がWIN―WINの関係で中国の大気汚染に取り組むことを目標にします。

では1点目に日中の企業間、2点目に日中の政府間として対策方法を説明します。

まず1点目の日中の企業間の対策ですが、不備として中国企業は、「目標達成の見通しがたたないこと」日本企業は、「リスクが高いため、技術提供が進まないこと」があげられます。
この問題点を踏まえ、CDMを用いた取引に加え、「温室効果ガス以外の汚染物質削減量の取引」を取り入れます。この削減量取引ですが、日中の政府間で「ある汚染物質の削減、何グラムあたり何円(いくら)」という規定をつくった上で、中国企業が排出する汚染物質の削減を日本企業が行った分を、中国の環境対策費から受け取れるようにします。
この2点の取引で、技術を持つ日本企業は中国の汚染物質削減をビジネスチャンスと捉え、より高いインセンティブが生じます。
さらに京都議定書の削減目標に対し、リスク緩和のため省エネのCDMを利用しやすくなるという副次的なメリットが生じます。

次に2点目の日中の政府間としての対策ですが、不備として中国政府は、「電力部門に対する政策が打たれていないこと」が日本政府は、「中国の大気汚染物質に対して、直接的な政策を打てないこと」があげられます。
この問題点を踏まえ、今までほとんど対策がとられてこなかった中国の石炭火力発電所などの電力部門に対し、汚染物質の除去活動、省エネなどの技術を提供します。これに対し、中国側は企業間の対策と同じく、「汚染物質の削減分に対する取引」をし、中国の環境保全費から受け取れるようにします。

そして、中国は5カ年計画での目標である「経済と環境の調和」に向けた不備のない政策を用いることで、大気汚染の悪化は回避され、快方に向かいます。
そして、中国からの越境汚染を回避することで、私たちの健康な生活も確保されます。

快晴の空の日、太陽光により汚染物質が反応し、光化学スモッグは発生します。
このスモッグにより手足のしびれ、呼吸困難の症状が発生し、死に至った被害者もいるのです。
被害者が増えることなく…
快晴の空のもと、みなが健康に過ごせる日が来ることを祈り弁論を終了させていただきます。

ご清聴有難うございました。


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