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演題 「公教育とバウチャー制度」

弁士 小野翔平(政2)

杉並区和田中学校、夜スペ。みなさんは聞いたことがあるでしょうか。昨年度の3月20日、私は、杉並区和田中の卒業式に行きました。杉並区の難聴学級で数学を教えるボランティアしており、教えていた生徒が卒業式を迎えたからです。その、和田中というのは、リクルート出身の、民間人校長藤原和博さんによる教育改革が行われた学校です。大手進学塾である「サピックス」と連携し、放課後に塾講師が学校で勉強を教えるという、夜スペシャルで一躍、有名となりました。この藤原さんによる教育改革は、夜スペシャルだけではありません。たとえば、学期を4学期制にして、授業数確保を図り、生徒による授業評価制を導入して、教師に授業を考えてもらう機会を作り、さらに、土曜日には学生ボランティアたちが先生となり、勉強を教える「土曜日寺子屋」の設置を行いました。
これが、学力下位層の底上げ、上位層の引き上げに繋がり、平成19年度の学力調査では杉並区にある23の中学校の中で総合1位となっています。
現在、教育分野においては、様々な問題が存在しています。その中でも、特に学力低下は大きな問題となっています。
OECDが3年おきに実施している学習到達度調査(PISA)によると、数学的リテラシーは、OECD加盟国の平均と比較すれば高い水準維持しているものの、2000年、2003年、2006年と年を重ねるにつれ、557点、534点、523点というように、平均得点自体は低下してきています。
また、読解力という分野の得点に限れば、2000年の調査からずっと、OECD平均と同程度の維持に留まっています。このことから、学力は向上の方向には向かっていないという現状があります。
このような現状を踏まえて、現在の教育政策、教育制度は、効果的な政策が打てているといえるのでしょうか。
私は打てていないと思います。

その最たる原因は、画一的な教育を行っていることです。画一的な教育をすることにはリスクが伴います。そのリスクの話をする前に、まずは前提の話をしたいと思います。
公立と私立の、児童、生徒の人数を比べてみます。公立の小学校が1年生から6年生までを合わせて710万人に対し、私立の小学校は7万人、公立の中学校が350万人に対し、私立の中学校は23万人です。このことから、小中学校における教育はほとんどが公教育であることが分かります。つまり、小中学校の教育を改善していくには、公教育を変えていかなければなりません。その、公立の小学校、中学校の教育政策は、各市町村や都道府県の教育委員会、そして、文部科学省が担っています。
そこで、みなさん、ゆとり教育を思い浮かべてください。これは、国を挙げて同じ政策を取ったものです。ゆとり教育は導入後、先ほどのPISAの結果やメディアのバッシングなどによって、不安視されるようになりました。けれでも、それは教育を改革するにあたっては、仕方のないことなのかもしれません。改革をするということは、意見を衝突させていくことでもあるわけです。しかし、このゆとり教育を推し進めた中教審が、今年の1月17日の答申で、学習指導要領の改訂、授業数の増加、総合的な学習の時間の縮小など、ゆとり教育の見直しを文部科学省に提案しました。ゆとり教育は、むしろ国民の教育不安を煽る結果となってしまいました。ゆとり教育はあくまで一例に過ぎません。

日本という国家規模で同じ教育改革を推し進めようとすると、それが失敗した場合、その被害が日本全国に及んでしまいます。その子供たちが大人になったとき、今から数十年後の社会に大きな損害を与えてしまいます。教育を画一的に行うということは、それだけリスクが大きいのです。 そこで私は、この現状を改善すべく、次の3つの政策を提案します。

1つは、教育バウチャー制の導入です。
バウチャー制とは何か。
まず、子どもをもつ家庭にバウチャーという一種の現金引換え券を交付します。次に、保護者や子どもが自由に学校を選択し、入学する際にバウチャーを学校に渡します。学校は集まったバウチャーの数に応じて行政から学校運営費を受け取ります。集まったバウチャーの数に応じて学校運営費が交付されるので、学校はより多くの子どもを集めるため新たな政策・方針を示していく、そういう仕組みになっています。 こうすることで、価値観の多様化が進んでいる社会に対応して、また、それぞれの地域の文化、実情に合わせた学校づくりを進められます。同時に学校による教育改革であるため、その学校の教育改革が、失敗してしまったときのリスクを軽減することができます。ただし、この失敗したか、成功したかの判断に関しては、学校が下すのではなく、子供を持つ親が入学させるか否か、「学校を選択する」という方法で一般の人々が判断を下すようになるわけです。

2つめの政策は、地域コミュニティとの連携強化を図るため、「学校運営協議会」を設立します。「学校運営協議会」は、地域の方々や保護者、ボランティア希望者で構成され、学校運営に参加できるようにする仕組みです。現在あるPTAと何が違うのかといえば、「保護者」「地域の人々」というように別々に見るのではなく、「学校の運営に協力してくれる人」という形で同じ協力者として見る点です。こうすることで、保護者に限らず、学校教育に関心がある人の協力を得られるようになります。たとえば、放課後に教室を貸し、授業についていけない子供に、地域の方々が勉強を教える、といったシステムを作ることも可能でしょう。定年によって退職した元教師に協力してもらうことも可能かもしれません。同時に学校改革を行う際、学校だけでは手に負えない範囲のサポートもしてもらえます。実際に和田中では、夜スペを実施する際、夜9時に終わるので、下校時の安全が心配されていました。この問題は、学校側が、地域の方々と話し合い、地域の方々が家まで送っていくということで、解決したという経緯があります。また、副次的なメリットとして、学校と学校改革に協力してくれる地域の方々、保護者、ボランティア希望者と意見を交換をできるようにもなるわけです。

最後に3つめの政策です。純粋にバウチャー制を導入してしまえば、教育の格差が広がってしまう恐れがあります。そこで、その欠点を埋めるため、全国学力テストを導入します。 全国学力テストを実施し、学校別の平均点の情報を一般に公開します。総合得点が全国平均正答率より20%以上劣っている場合、教育委員会が学校業務に干渉できることとします。学力によって、いける高校、いける大学の決まる社会の仕組みである以上、学校教育の結果に極端な格差を発生させるわけには行きません。全国学力テストを導入することで、読み書き計算といった生徒の学力の最低限を確保し、公教育としての役割を果たすことにします。

このバウチャー制度によって、やれることはたくさんあります。和田中のように、塾と提携することもできます。詰め込み教育も、少人数授業も、習熟度別授業も各学校、推し進めることができます。また、学力に限らず、学校行事の充実を図ることも可能です。それを選ぶのは一般の人々に託されています。
藤原校長は卒業の式辞で、「価値観が多様化し、成熟した社会では、すべてに満足した生活は送れない。けれども、納得した生活は送ることができる。」とおっしゃっていました。すべてに完璧で、すべての人間が満足できる、そんな教育は有り得ません。より多くの人が納得してもらえる、そしてまた、より多くの子供の能力が向上していける、そんな学校、そんな教育を目指して生きたいものです。
ご清聴ありがとうございました。


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