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演題 「危機から救うには」

弁士 成田嵩憲(政1)

『あなたには大切に思う人がいますか?』
私には、大切に思う人がたくさんいます。父、母、姉などの家族、小学校から大学までにできた友人、彼女…。
聴衆の皆さんにもこのような大切な人がいるにちがいありません。大切な人とできる限り長く付き合っていたいと考えるのは当然のことです。

しかし、保健所で働いている母の同僚のAIDS相談員の方は、『日本の新規HIV感染者・AIDS患者は毎年過去最高を更新していて、今後、HIV感染者・AIDS患者が急上昇する兆しが見られるから、感染爆発する可能性が高い』という話しをしていたそうです。
本当にそのようになれば、多くの方が大切な人を失うことになります。

HIV感染をしたのち一定の期間、健康な生活と一見かわりのない潜伏期間がある独特な病気であるAIDS…。現在、日本では先進国の中で唯一、HIV感染者が上昇傾向にあり、累計で1万人を超えたのちも増加を続け、2006年ではHIV感染者・AIDS患者が1304人になり過去最高になったと、厚生労働省エイズ動向委員会が報告しています。

この累計1万人、新規が1304人という数字をみなさんはどう捉えますか?
この数字を、聴衆のみなさんはおそらく少ないと捉えるしょう。たしかに現在のほとんどのHIV感染者・AIDS患者は15歳から49歳までであり、その人口は総務省報告によると約5700万人なので約1万人のHIV感染者・AIDS患者から、計算上、『5700人に1人』の確率でいることがわかります。

では、『どれくらいの人に1人』の確率になれば危機と感じるのでしょうか?
1990年代前半に、感染被害に苦しんだアメリカでは15歳から49歳までの人口は1億5000万人程度であり、その時のHIV・AIDSの数はWHOの報告によると90万人程度であったので、計算上、『160人に1人』の確率でHIV感染者・AIDS患者がいたことがわかります。
3万人のいる大学では、200人の方がHIV感染者・AIDS患者です。この数字は明らかに危機であることがわかります。

私たちはこの問題に危機意識をもたず、アメリカのように本当に目で見える危険まで、危機感を持たずに無関心でいることが、できるのでしょうか?
危機が迫っていることを論じるためにも、まず、現在のHIV・AIDSの感染者の傾向から危険性を論じたいと思います。
傾向は2つあります。

1つ目に、HIV感染後、AIDS発症まで遅らせることが、できるようになったにもかかわらず、診断時に既にAIDS発症をしている患者がAIDS動向調査報告全体の約30%を占めていることです。
この数字からHIV抗体検査を受けてない人が多くいることがわかり、本当は感染しているのに気づいていない影のHIV感染者が多くいることがわかります。この感染に気付いていない影の感染者に対しての政策はできないため、この現象が続けばHIV感染者の増加の可能性が大きいことがわかるはずです。

2つ目に、若年層の感染増加も特徴としてあげられます。
理由はさまざまにあると思いますが、全国高校PTA連合会の調査によると、性向経験者の割合は、高校3年生の女子では40%が、男子では30%もおり、また性交経験者のなかでの性交相手の数の調査では、高校3年生で4人以上の人と性向した割合は、男女ともに25%もいます。
このことから近年、性行動が若年化し、無防備化し、また、交際が長続きしないために相手の数が増え、若者は知らぬ間に性的ネットワークを形成していることがわかります。つまり、年齢的にこれからHIV感染する可能性が最も高い、若年者、すなわちHIV感染予備軍の性行為の若年化、無防備化は、HIV感染の増加の可能性をひきたてるでしょう。
この2つの影のHIV感染者、HIV感染予備軍という特徴からAIDSに対し、危機意識を持たなくてはならないことがわかっていただけたと思います。また、大切な人とできるだけ長く付き合っていたいのなら、関心をもたなければなりません。

この2つの問題点を考慮して、私の政策を論じたいと思います。
政策は2つあり、1つ目に引換券AIDS検査制度、2つ目に新AIDS教育であります。

1つ目の引換券AIDS検査制度とは、現在、HIV・AIDS患者数が増大している20歳代、30歳代を対象にし、HIV抗体検査を受けることを薦める制度であります。その中でも、5の倍数の歳の方に、保健所から引き替え券を郵送します。そして、この引き替え券を持ってきた抗体検査受検者には3000円程度の診察などの検診カードを手渡します。
例えば、現在、22歳の方は25歳の年に引換券をもらえると言う事です。
このことから、AIDSにたいする無関心脱却と、AIDS発症をしている患者がAIDS動向調査報告全体の約30%を占めていることの解決、すなわち、影のHIV感染者の早期発見との、2点が解決されます。
また、新成人の約60%の参加が見込まれる成人式でAIDS教育のパンフレットに『AIDS無料診断、無料検査券』を添付しAIDSに対しての知識と検査について再認識をする機会を設けます。この無料検査券は、AIDS検査を受けられる機関が主に平日にしか行われていない保健所に限らず、休日に有料検査を行う病院にも使えるというメリットがあり、本人の都合に合わせて使える券であるため20歳代の検診に効果的であります。
しかし、検査により感染者拡大の現実が明らかになるなどの問題が生じる可能性もありますので、AIDSカウンセラーの人的な充実、また、検査の際のAIDS指導などをして、差別・偏見が起きないようにします。

次に、2つ目の新AIDS教育とは、従来の内容を引き継いだうえでの教科書の内容の変更をさします。
現在の教科書は、1990年代はじめに騒がれた際の、HIV感染の感染経路の勘違いを治すために書かれた政策になっているため、先ほどからの繰り返しになりますが危機感を持たない若者が多いことがわかります。そのため、内容を少年・少女の視点に合わせることが必要であります。
少年・少女の視点からの内容とは、『性関係を急ぐ必要はないこと』、『AIDSを含む性感染症の危険性を自覚すること』の2つを柱にすることが必要です。その中でこそ、感染経路などの知識が生きてくるはずです。そして、HIV・AIDSについての知識を中学生の段階から充実させます。また、先ほどにも挙げたとおり、高校生の性行為が増大していることから、中学生での教育を継承するべきです。
この政策から改善される点は、若年者、すなわちHIV感染予備軍の感染拡大であります。

HIV・AIDSという病気に対し、我々は治療薬が開発されるのを待つのではなく、未来の感染者を防ぐためにも、地道な努力をしなければ、やがて目に見える危機となって表れ、莫大な数の人が苦しむことになります。そうならないためにも、私はこの政策を推進します。

最後に…あるAIDS患者は次のように語っています。『AIDSになる前に病気がわかっていたら、規則正しい生活と薬の副用で遅らせることができたのにね…こんなにたくさんの薬、本当につらいよ…でも死が目前に迫った今、息子の顔を見るほうがもっと辛い。』
今、大切に思う人または思ってくれる人がいるのなら、できるだけ早い段階で発見することが自分のためにも相手のためにもなります。
それとともに、HIV・AIDSの人との共生が可能であることを早い時期から学び、また、学んでいない人は検査の際などで理解することで、ほかの病気の理解にもつながります。
大切な人とできる限り長い間、幸せに過ごしたいですよね。
ご清聴ありがとうございました。


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